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三吉慎蔵が西郷隆盛に贈った赤間関硯

長府藩士、三吉慎蔵の西郷との出逢いは、京都伏見の寺田屋事件から一週間後の慶応二(1867)年二月一日、坂本龍馬とともに京都の薩摩藩邸を訪ねた時の事でした。慎蔵はその時の印象を「拙者ハ初メテノ面会ナレドモ其懇情親子ノ如シ」と日記に記しています。

同年三月五日、薩摩藩の軍船で大坂から帰薩する西郷や龍馬達に同行した慎蔵は、長府藩主に京都の情勢を報告するため、三月七日に途中赤間関(下関)で下船し、赤間関硯を購入して西郷らに餞別として贈っています。

西郷に贈られた硯は、水滴、蓋付きで月夜で波の上を二羽の兎がかける彫刻が施されています。これは『謡曲 竹生島』の一節「月海上に浮かんでは兎も波を奔るか」から図案化された文様です。無銘ですが、丁寧な作風の上物と言えます。実際に西郷がこの硯を使用したのは二年余りでしたが、この間、どのような歴史的場面に立ち会ってきたのでしょうか、興味は尽きません。

赤間関硯「波に兎」 酒田市(財)荘内南州会蔵
赤間関硯「波に兎」 酒田市(財)荘内南州会蔵
画像提供:下関市立歴史博物館
画像提供:下関市立歴史博物館