名硯石「赤間石」

赤間関硯の石材 「赤間石」

赤間関硯の石材は、赤間石(あかまいし)などの名で知られ、古くは豊前国門司(ぶぜんのくに もじ:現在の北九州市門司)や赤間関で、江戸時代(18世紀)中期からは厚狭(あさ:現在の山陽小野田市厚狭)で採石され、赤間関で硯に加工されていました。現在は、宇部市の山奥で採石され、下関市や宇部市で硯に加工されています。

採石は現在、採石権を持つ宇部市西万倉の硯師の手で行われています。赤間石の採石は、山に掘った坑道の中で行いますが、坑道は地層に沿って約20度の傾斜で下っており、雨水がたまりやすく、採石前の排水作業が欠かせません。
地層から硯に適した石を見極める目も必要で、微量ながら火薬も使用するため、全工程が手作業である硯制作の中でも、特に苦労の多い作業といえます。

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採石坑道入口(令和元年11月撮影)

硯の石材には、墨をすり下ろすための鋒鋩(ほうぼう)※1が必要です。赤間石はこの鋒鋩を満遍なく含んでいます。さらに硯の制作工程で鋒鋩を研ぎ出すことにより、墨が細かくすれ、伸びの良い墨汁を得られることから、赤間関硯は細筆で続けて書く仮名文字に向くとされています。また、赤間石は粘りのある硬さがあるため、細工をしても欠けにくいので彫刻を施しやすく、観賞用の美しい硯を作れることも特徴です。

赤間石には、色や硬さなどが異なる5種類の石があり、赤紫色を帯びた茶褐色の「紫雲石(しうんせき)」がよく知られています。他に、丸い眼 (め)のような紋様がある「紫玉石(しぎょくせき)」、石全体が青っぽい「紫青石(しせいせき)」、石全体が紫色を帯びた「紫石(しせき)」、青みや赤みを帯びた縞(しま)模様があってぬらすと殊に美しく、殿様用に使われたともいう「紫金石(しきんせき)」があり、これら4種類は特に数が限られています。古来、赤間石の硯が珍重されたのは、国内に赤紫を基調とする硯の石材が少ない中、日本で尊ばれた中国の「端渓硯」に色が似ていたからではと考えられています。

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左から順に、紫雲石、紫青石、紫金石

赤間石は、建材にも使用された例があり、安芸の宮島、厳島神社の平舞台を今も支えている束柱※2は、毛利輝元が元亀2年(1571)に寄進した赤間石と伝えられています。

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厳島神社の平舞台を支える束柱(平成27年11月撮影)

※1 鋒鋩(ほうぼう): 硯の表面にある目には見えないほどの大きさの凹凸のこと
※2 束柱(つかばしら): 床下などに立てる短い柱のこと